車輪

仕事終わり久しぶりに一杯飲みに行った。

これもまた楽しい。

 

1年と少し前に今の街に引っ越しをした。

 

知らない道や、知らない店。普段乗らない電車の路線。

少し寂れた街だが、俺には輝いて見えた。

 

毎日更新されていく、どうでも良い知識や、通勤の近道。

 

毎日が楽しかった。

 

それが最近、復活しているように思う。

 

1年も経てば慣れてしまう街での暮らし方が、また更新されている。

 

周りが大変なのはわかっているが、たった2ヶ月の自粛で大事なものを見つめ直せるのはデカい。

 

人間は本質を忘れちゃダメになってしまう。

 

 

冒頭にも書いたとおり、仕事終わりに一杯ひっかけてきた。

 

昔よく行ってた立ち飲み屋だ。

 

ここの特徴は、店がある程度広く、常連がくっつかない。

ここでの俺は、いつも、一期一会の会話をしているように思う。

 

今日、俺の横にふらっと現れた男は、ベーシストだった。

 

店員が俺に対してライブハウスの話や、家でギターを弾いているのか。と言う話題から会話に入ってきた。

 

家のベースは埃を被っていると話す50代のベーシスト。

 

実際のところ、珍しくもない話だ。

ノルマを払って何回かライブをしたと言う人が多い。

 

それが別に、悪い事とも思わないし、好きなアーティストの話をすれば面白いからな。知らないアーティストを教えてもらえれば万々歳だ。

 

俺は普段通り、年甲斐もなく、遊びみたいなものでバンドを続けていると話す。

 

すると、会話の中からツアーの話や、大きめのハコでのワンマンの会話が出てきた。

 

30年前にきっと活躍していたバンドだ。

少し焦ったが、時代が違うのもあって、知らないのは失礼にはあたらなかった。

 

実際、知らなかったがな。

 

俺も自分のバンド名を出すと、変に敬語を使われる時がある。

そういうのがあまり好きじゃない俺にとっては、良い距離感だった。

 

しかし驚いた。

 

やはり、どこでライブしていたかの話になる。

話していくうちに1つのライブハウスの名前が上がった。

 

ファンダンゴだった。

 

ファンダンゴはとにかくお世話になっているライブハウスで、スタッフとも親友の様に接している。

時代は違えど、そのベーシストも同じだった。

 

そこからの会話は、とにかく共通の話ばかりで、こんな事もあるんだな。と思った。

 

思わずファンダンゴの加藤さんに電話した。

 

かなり好きなバンドだったらしく、疎遠だったかつての友に加藤さんも喜んでいるのがわかった。

 

実際にライブを見ていないし、音源も聴いていないが、

下手くそで、バラバラで、とにかくカッコ良いバンドだったみたいだ。

 

何も知らず世代交代をして、俺らがそれを引き継いでいるような気がして、とにかく嬉しい気持ちになった。

 

別に使命感は無いが、加藤さんから見るファンダンゴの歴史の中で、その2バンドがちょっとしたダイジェストになっていれば、それはとてもドラマチックだ。

 

俺らが引退した後、ファンダンゴでは、当たり前のようにそんなバンドがまた現れるんだろう。

 

車輪のように回り回って

俺が50歳を過ぎた頃、そいつと立ち飲み屋で出会えたら面白い。